あの時、福島のある町で起こっていた、25人の真実
をテンプレートにして作成
[
トップ
] [
新規
|
一覧
|
単語検索
|
最終更新
|
ヘルプ
]
開始行:
[[福島第一原発事故]]
*あの時、福島のある町で起こっていた、25人の真実 [#o573d01d]
ウィンザー通信 2011年10月13日~
http://blog.goo.ne.jp/mayumilehr/e/f13884af9cb768d68c4047...
薔薇、または陽だまりの猫さんのブログに、ずっと読みたいと...
福島県、浪江町の津島地区で起こった、津波と原発事故直後の...
『プロメテウスの罠』と題されたこの記事は、前田基行記者が...
その第1シリーズとなった『防護服の男』が、ずっと読みたいと...
ギリシャ神話によると、人類に火を与えたのはプロメテウスだ...
火を得たことで人類は文明を発達させた。化石燃料の火は生産...
プロメテウスによって文明を得た人類が、いま原子の火に悩ん...
***■防護服の男 (1) [#xaf198cb]
(記事中の敬称は略しています)
福島県浪江町の津島地区。~
東京電力福島第一原発から、約30キロ北西の山あいにある。
原発事故から一夜明けた3月12日、原発10キロ圏内の海沿いの地...
小中学校や公民館、寺だけでは足りず、人々は民家にも泊めて...
菅野(かんの)みずえ(59)の家にも、朝から次々と人がやってき...
多くが親戚や知人だったが、見知らぬ人もいた。~
築180年の古民家を壊して、新築した家だ。~
門構えが立派で、敷地は広い。~
20畳の大部屋もある。~
避難者を受け入れるにはちょうどよかった。~
門の中は人々の車でいっぱいになった。
「原発で何が起きたのか知らないが、ここまで来れば大丈夫だ...
人々はとりあえずほっとした表情だった。
みずえは2台の圧力鍋で米を7合ずつ炊き、晩飯は握り飯と豚汁...
着の身着のままの避難者たちは大部屋に集まり、握り飯にかぶ...
夕食の後、人々は自己紹介しあい、共同生活のルールを決めた。
一、便器が詰まるのを避けるため、トイレットペーパーは横の...
一、炊事や配膳はみんなで手伝う。~
一、お互い遠慮するのはやめよう……。
人々は菅野家の2部屋に分かれて寝ることになった。~
みずえは家にあるだけの布団を出した。
そのころ、外に出たみずえは、家の前に白いワゴン車が止まっ...
中には白の防護服を着た男が2人乗っており、みずえに向かって...
しかしよく聞き取れない。
「何? どうしたの?」~
みずえが尋ねた。
「なんでこんな所にいるんだ! 頼む、逃げてくれ」
みずえはびっくりした。~
「逃げろといっても……、ここは避難所ですから」
車の2人がおりてきた。2人ともガスマスクを着けていた。~
「放射性物質が拡散しているんだ」~
真剣な物言いで、切迫した雰囲気だ。
家の前の道路は国道114号で、避難所に入りきれない人たちの車...
2人の男は、車から外に出た人たちにも「早く車の中に戻れ」と...
2人の男は、そのまま福島市方面に走り去った。~
役場の支所に行くでもなく、掲示板に警告を張り出すでもなか...
政府は10キロ圏外は安全だと言っていた。~
なのになぜ、あの2人は防護服を着て、ガスマスクまでしていた...
だいたいあの人たちは誰なのか。
みずえは疑問に思ったが、とにかく急いで家に戻り、避難者た...
***■防護服の男(2) [#qa78c517]
3月12日夕、菅野みずえは自宅に駆け戻り、防護服の男たちの話...
議論が始まった。
「本当に危険なら町や警察から連絡があるはずだ。様子をみよ...
やっと落ち着いたばかりで、みんな動きたくなかった。
しかし深夜、事態が急変する。~
数台のバスが、避難所になっている公民館に入って行った。~
それに避難者の1人が気付く。~
バスの運転手は「避難者を移動するのだ」と言ったという。
当時、浪江町は、逃げ遅れた20キロ圏内の町民たちを、津島地...
しかし、みずえはそんなことは知らず、やはりここは危ないの...
みずえは寝ていた人々を起こし、再び議論となった。
多くは動きたがらなかった。~
しかし、一人の女性が「みんながいたら、菅野さん家族が逃げ...
それで決まった。
「車のガソリンが尽きるところまで避難しよう」~
深夜0時すぎ、若い夫婦2組が出発した。~
2月に生まれたばかりの乳児や、小さい子どもがいた。~
夫婦は最初、「こんな深夜に山道を逃げるのはいやだ」と渋っ...
翌13日の朝食後、再び話し合った。~
前夜「逃げない」といっていた若い夫婦連れが「子どものため...
年配の女性が、夫婦に自分の車を貸した。~
「私は1人だから、避難所でバスに乗るわ」
夕方までには、25人全員が福島市や郡山市、南相馬市などへそ...
みずえは近くの家で避難している人たちにも、防護服の男たち...
1人が笑って答えた。~
「おれは東電で働いていた。おれらのつくった原発がそんなに...
男は原発事故からではなく、津波から逃れてきたのだ。~
みずえはこれで気が抜けた。~
みずえと長男の純一(27)は避難を取りやめた。
純一は避難所の活性化センターの炊き出し係で、握り飯をつく...
「おれだけ逃げるわけにいかないよ」~
このとき津島地区から10キロほどの地点で、30マイクロシーベ...
***■防護服の男 (3) 警察官、なぜあんな格好を [#l32196c8]
3月13日に、菅野家の25人が出て行った後も、津島地区の避難者...
避難指示は、12日午前5時44分に、10キロ圏内に拡大。~
1号機が水素爆発した後、午後6時25分に、20キロ圏内に広がっ...
しかし、官房長官の枝野幸男は、12日夜の記者会見で、~
「放射性物質が大量に漏れ出すものではない。20キロ圏外の地...
要するに、たいしたことはないが、念のため避難してくれ、と...
人々は、30キロの津島地区は安全だと信じていた。
東電の社員が、12日と13日に、浪江町の津島支所を状況報告に...
彼らは防護服ではなかった。~
「ここは危ない」ともいっていない。~
菅野みずえが会った男たちの様子とは大きく違っていた。
役場職員も区長も、みずえの会った防護服の男を見ていない。~
しかし、みずえは、見聞きしたことをしっかりメモに書きとめ...
15日早朝、前日の3号機に続いて、2号機で衝撃音がし、4号機が...
政府は初めて20~30キロ圏内の「屋内退避」を要請する。
津島地区の住民が避難したのはそのころだった。~
町長の馬場有らが、14日の3号機の爆発をテレビで知り、隣の二...
福島第一原発の正門では、15日午前9時に、毎時1万1930マイク...
それでも、枝野の発言は楽観的だった。
「放射性物質の濃度は、20キロを越える地点では相当程度薄ま...
「1号機、2号機、3号機とも、今のところ順調に注水が進み、冷...
原子炉が、12日のうちにメルトダウンを起こしていたことが国...
12日朝、浪江町で交通整理などにあたる警官が、防護服を着用...
「警官はなぜあんな格好をしているのか」~
住民は不安を抱いた。
浪江町議会議長、吉田数博(65)は津島地区の警察駐在所を訪れ...
吉田はいう。~
「知らないのはわれわれだけだったんだ」
***■防護服の男 (4) 殺人罪じゃないか [#qeae6e6f]
SPEEDI(スピーディ)という、コンピューター・シミュレーショ...
政府が130億円を投じてつくっているシステムだ。~
放射線量、地形、天候、風向きなどを入力すると、漏れた放射...
3月12日、1号機で水素爆発が起こる2時間前、文部科学省所管の...
放射性物質は、津島地区の方向に飛散していた。~
しかし政府は、それを住民に告げなかった。
SPEEDIの結果は、福島県も知っていた。~
12日夜には、東京の原子力安全技術センターに電話して、提供...
しかし、それが活用されることはなく、メールはいつの間にか...
3月15日に津島地区から避難した住民に、県からSPEEDIの結果が...
県議会で、この事実が問題となったためだ。
福島県の担当課長は5月20日、浪江町が役場機能を移していた二...
「これは殺人罪じゃないか」~
町長の馬場有は、強く抗議した。~
馬場によると、県の担当課長は涙を流しながら「すみませんで...
知らされなかったのは、SPEEDIの情報だけではない。~
福島県は、事故翌日の3月12日早朝から、各地域の放射線量を計...
同日午前9時、浪江町酒井地区で毎時15マイクロシーベルト、高...
浪江町の2地点は、ほかの町と比べて、異常に高い数値を示した...
1号機水素爆発の6時間以上も前で、近くには大勢の避難民がい...
これらの数値は、6月3日に経済産業省のHPに掲載された。~
しかし、HPにびっしり並ぶ情報の数字の中に埋もれ、その重大...
8月末、浪江町の災害救援本部長、植田和夫にそれらの資料を見...
「こんなの初めて見た。なぜ国や県は教えてくれなかったのだ...
菅野みずえはいう。~
「私たちは、国から見捨てられたということでしょうか」
***■防護服の男 (5) 私、死んじゃうの? [#u234e31e]
菅野みずえの家にいた25人の人々は、その後どこに向かったの...
その一人、谷田(やつだ)みさ子(62)はいま、愛知県春日井市の...
みずえの遠い親戚だ。~
同じ浪江町の小野田地区に家がある。~
みずえの家からは約20キロ海寄りで、福島第一原発から10キロ...
3月11日午後、自宅で地震に襲われた。~
翌12日早朝、隣の双葉町に住む次女一家が「ここは危ないから...
朝9時、家を出た。
みずえの家がある津島方向に向かう国道114号は、すでに大渋滞...
国道6号に出て北に進み、南相馬市小高区の長女宅に向かう。~
ここで、1号機の水素爆発を知り、さらに全員で津島を目指した。
みずえの家に着いたのは、夕方6時を回っていた。~
他の避難者が、炊き出しの握り飯を食べ終わったところだった。
一日中走り回って疲れていたが、避難者の会議には出席した。~
共同生活ルールのうち、使用済みトイレットペーパーを段ボー...
以前メキシコ旅行をしたときの経験を思い出したからだ。
しかし、ほっとしたのもつかの間、白い防護服の男たちの警告...
生後1カ月の赤ちゃんを抱えた次女一家7人と、長女一家4人を、...
翌13日夕、みさ子も発った。
行くあてはなかったが、「少しでも遠くに」と郡山市を目指す。~
郡山市では、避難して来る人たちの放射能測定をしていた。~
みさ子に測定器が向けられると、針が大きく振れた。~
「私、死んじゃうの?」と、測定係に叫んだ。
その晩は、車で寝た。~
15日朝、地震当時は相馬市にいた夫(54)と、携帯電話でようや...
会津若松市で合流し、新潟県経由で、22日、姉が暮らす春日井...
国や東京電力から、的確な指示が一切ないまま、12日間の逃避...
「原発は安全」~
これまで、そんな説明を、何度も聞いていた。~
それを前提とした生活が、すべて崩れた。
しかし、原発のおかげで、住民が恩恵を受けてきたのは事実な...
「原発だけ悪いなんて、私たちはいえないのよ」~
みさ子はため息をつく。
***■防護服の男 (6) ハエがたかっていた [#n40bf277]
谷田(やつだ)みさ子(62)は、浪江町で生まれ育った。~
中学生のころ、東京電力が、福島第一原発づくりを始めた。~
高校卒業後、上京して就職したが、1年半で浪江町に戻った。~
そのあとは東電一色の生活だった。
結婚し、3人の子を育てながら、焼き鳥屋をやった。~
客は、原発で働く作業員たちだった。~
その後は、東電の社員寮に勤める。~
昨年の夏まで10年間働いた。~
食事をつくり、若い社員らに「やつだっち」と呼ばれて慕われ...
女子寮には、女子サッカーのなでしこジャパンで活躍した鮫島...
「みんないい子でかわいかったです」
子供たちの手が離れてからは、東電の管理職の寮に住み込んだ。
思い出すのは選挙の時の東電の力の入れようだ。~
町長選挙や県議会議員選挙があると、寮の食堂が、東電幹部ら...
支援候補が当選すると、幹部はそろってお祝いに駆けつけた。~
「電力会社は政治とがっちりつながっているんだな」と感心し...
これまでの人生の半分以上を東電とかかわってきた。~
にもかかわらず、今度の事故では、東電から何の情報もなかっ...
愛知県春日井市に避難してからは、いっそう情報が入らなくな...
福島県の地元紙を郵送してもらい、隅から隅まで目を通す。
これから生活はどうなるのか。~
補償はどうなるのか。~
不安だらけだ。
6月、浪江町の家に一時帰宅した。~
冷凍庫は地震でひっくり返ったままで、腐った食材にハエがた...
8月末、自分の車を引き取りに、再び福島に戻った。~
夫が車を運転し、春日井市から高速道路で8時間かかった。~
広野町の体育館で防護服に着替え、用意されたバスに乗り込ん...
バスが止まると、首輪をつけた2匹の犬が、足元に寄ってきた。~
途中、道ばたで、猫が2匹死んでいるのを見た。
「一歩間違えたら、私たちがああなっていたのかな」
事故後、長女は郡山に、次女は新潟に、家族は散り散りになっ...
9月、福島県の仮設住宅に入居を申し込んだ。~
「福島は何十年も暮らした土地ですから。戻りたい」~
涙がこぼれた。
***■防護服の男 (7) 早く東京へ来なさい [#e593591b]
東京に住む娘の携帯電話の指示で、転々と避難を続けた者もい...
菅野みずえの家に避難した、門馬洋(もんま・ひろし)(67)と昌...
自宅は、浪江町の権現堂地区で、原発まで10キロ内。~
3月12日朝、町の防災無線が「津島に逃げてください」と避難を...
車で、知り合いのみずえの家に避難した。
菅野家には、昼前に着いた。~
昌子はみずえの炊き出しを手伝い、お握りを握った。~
夕食後、25人の避難民たちが、自己紹介しあった。~
知り合いが何人もいた。
みずえから、白い防護服の男たちの話を聞かされたときは、夫...
しかし、翌13日朝、再びみずえから逃げるようにいわれ、昼前...
とにかく北へ逃げようと、南相馬市を目指した。~
コンビニも商店も閉まっていた。~
レストランを見つけた。~
納豆定食が残っていたので、それを食べた。~
3軒のホテルに断られ、ようやく見つけたホテルに泊まった。
14日夜、福島空港から飛行機に乗り、15日に東京の長女と合流...
長女の真理子(36)は地震のあと、両親の携帯を呼び続けた。~
11日の地震直後に、一度通じただけで連絡が途絶える。~
あとはメールだけだった。
しかし、メールの返信も途絶えた、12日の午前8時43分。~
「お父さんとお母さんの無事を、神様にお祈りしています」
テレビやインターネットで、原発事故の新しい情報を必死で探...
1号機が水素爆発した12日の午後9時。~
真理子は、テレビで専門家が「大丈夫」、と言っているのを聞...
「爆発は外壁だけで、放射能をまき散らすものではなかったと...
そんなメールを送った。~
大変な誤りだった。
両親が、南相馬市に再避難した13日には、「女川原発まで放射...
そして14日の正午。~
「3号機が11時半に爆発した。早く東京へ」~
父は「そこまで行かなくてもいいじゃないか」と返してきた。~
真理子は「とにかく早く来なさい!」と叱った。~
責任のある人たちは、だれも両親を助けてくれようとしなかっ...
真理子にはその不信感だけが残る。
***■防護服の男 (8) 「ふるさと」歌えない [#tdd5d2a9]
菅野みずえの家に避難した門馬洋(67)は、元高校教師だ。~
福島第一原発がつくられた40年前から、反原発運動にかかわっ...
当時住んでいた、楢葉町(ならはまち)の町営住宅に、住民3人が...
県知事や町長らに、危険性を訴え続けた。~
東京電力とは、数年前から毎月1回交渉し、3月22日も交渉が予...
原告404人で、隣の福島第二原発について裁判を起こしたが、負...
そのとき、仙台高裁の裁判長が述べた言葉を、今もはっきり覚...
「反対ばかりしていないで、落ち着いて考える必要がある。原...
それから21年。~
原発は安全だという幻想は、あっけなく崩壊した。
「東京電力の想定がいかに甘いか。そのために多くの人に、ど...
しかし、浪江町が今回の事故で、「殺人行為だ」と、国や東京...
浪江町にも、東北電力の原発建設計画が、40年前からあった。~
浪江町議会が、誘致を求めていたものだった。~
昨年、町内会の会合で、町議が洋を見ながらいった。~
「原発で浪江町の未来は明るくなる。門馬先生は反対でしょう...
7月に一時帰宅したとき、線量を測った。~
家の近くで、毎時4マイクロシーベルトあった。
畑には、大きな柿の木がある。~
長女の真理子(36)が生まれたときに、植えたものだ。~
300個以上の実をつけた年もあった。~
「もう実がなっても食べられませんね。汚染されてしまったか...
30年ほど前、町内の体育館を借り、東京の劇団を呼んで、放射...
原発事故で町民が逃げ惑う、というストーリーだった。~
それが現実になった。
夫婦は、東京都北区の団地に、身を落ち着けている。~
家賃は、13万5千円と高いが、長女の家の近くに住むため、そこ...
東京電力からもらった仮払金100万円を、家賃の支払いにあてる。
洋は、福島にいたころから、合唱が好きだった。~
7月、北区で、合唱団の催しがあるのを知り、妻の昌子(68)と参...
兎(うさぎ)追いしかの山、の「故郷(ふるさと)」を歌った。~
洋も昌子も途中で歌えなくなった。
***■防護服の男 (9) [#p61f3ac5]
浪江町の、赤宇木(あこうぎ)地区に住む、三瓶(さんぺい)ヤス...
菅野みずえとは、公民館の民謡サークル仲間だ。
ヤスコは8月初めまで、細い山道を上った一軒家に1人で住んで...
地震直後は、神奈川県の孫娘の1DKのアパートに、富岡町の長女...
しかし、隣室の食事の音まで聞こえる。~
周りにも気を使う。~
「この年になると都会の生活は合わない」~
犬と猫のことも気になり、4月末に赤宇木に戻った。
そのころは、まだ地区に数世帯が残っていた。~
そのうち1軒減り、2軒減り、誰もいなくなった。~
警察が30キロ付近で通行規制を始めると、車も通らなくなった。~
さみしくなった。~
夜は真っ暗だ。~
何も考えないように思っても手が震え、食べ物がつかえた。
気晴らしに近くをドライブした。~
しかし、帰り道はどの家も明かりはない。~
山道を落ちても、だれも助けにきてくれないと思うと、ドライ...
日曜になると、背中に「文部科学省」と書かれた作業服の男た...
ヤスコは、車がくると出て行き、「今日はなんぼですか」と尋...
「15マイクロシーベルトだよ」~
男は気軽に教えてくれた。~
「私の家も測ってくれんかね」
別の日、男は家の周辺を測ってくれた。~
家の外で10マイクロシーベルト、居間で5.5マイクロシーベルト...
平常値をはるかに上回る量だ。~
男はそれを紙に書いてヤスコに渡した。
6月初めのある日曜日、男がポツリと言った。~
「今だからいうけど、ここは初め100マイクロシーベルトを超し...
その後も、男は「参考にして」といって、各地域の放射線量が...
だが、ヤスコは8月初めまで赤宇木にとどまる。~
「放射能は目に見えるわけでないし、数値を聞いてもよく分か...
8月初め、二本松市の仮設住宅に当たったため、赤宇木を出た。~
しかし、今も2日おきに、約25キロ離れた自宅まで車で通う。~
犬と猫にえさをやるためだ。
***■防護服の男 (10) 口止めされた警察官 [#ne19c858]
関場和代(52)は3月14日、会津若松市の親類宅に避難した。~
家は、菅野みずえの家に近い、浪江町南津島にあった。
その後も、避難指示がないため4月2日、ひとまず自宅に戻った。~
数日して、家の前に自衛隊のジープがとまり、隊員が降りてき...
安否確認で来たという。
そのころ、浪江町の放射線量が高いことが報道されていた。~
それが心配で、おそるおそる尋ねた。~
「この辺の線量はどのくらいですか」~
隊員はにっこり笑い、ここは大丈夫だと答えた。~
「私たちは線量計を付けています。1日にどのくらい線量を浴び...
和代はそれで安心した。~
家に閉じこもるのをやめ、近所に出かけていった。~
4月17日。~
近くの橋の上にいると、男が近づいてきた。~
フリージャーナリストの豊田直巳(55)だった。~
和代が、自宅の線量を測ってほしいと頼んだ。~
豊田は、敷地のあちこちを測りはじめた。
玄関の雨どいの下を測ったとき、豊田が「ワッ、これは大変だ...
ためらう豊田に、和代は「本当のこといってください」と頼ん...
「2時間いたら、1ミリ吸います」と、豊田は答えた。
豊田によると、そのときの線量は、毎時500マイクロシーベルト...
2時間いただけで、年間許容量の1ミリシーベルトを超える値だ。
具体的な数字を初めて聞かされ、大変なことだと初めて自覚し...
和代はあわてて身支度し、豊田に見送られて家を飛び出した。~
数日後、ネコを引き取りに、再び家に帰った。~
警視庁のパトカーが敷地に入ってきた。~
「ここって高かったんですね」と、30代ぐらいの警察官に聞い...
「そうなんです、高いですよ。でも政府から止められていてい...
警察官はそう答えた。~
和代はびっくりした。ジープの自衛官がいったことは何だった...
「もし自分の家族だったら、同じことがいえますか。真っ先に...
7月、中国の高速鉄道事故で、証拠隠しが発覚した。~
日本のメディアは、中国政府の対応を厳しく批判した。~
和代は腹が立ってくる。
「日本だって同じじゃないの」
***■防護服の男 (11) あの2人のおかげで [#ve7cb1c9]
菅野みずえの家に避難した25人は、「白い防護服の男」の情報...
大量の放射性物質が飛び散り、住民が被曝(ひばく)するかもし...
しかし、政府も東京電力も、それを住民に教えなかった。~
しかし25人は、混乱を起こすこともなく、冷静に動いている。
みずえは今、福島市に近い、桑折町(こおりまち)の仮設住宅で...
「ほら、見てください」~
みずえは空き地で遊ぶ子どもたちを指さす。~
「あんな小さな子が、避難生活の苦労を背負って、これから生...
それにしても、あの白い防護服の男たちは、一体だれだったの...
みずえは今も考える。
そのころ福島県内は、文部科学省や福島県、日本原子力研究開...
例えば、新潟県からの応援車もきていた。~
3月12日夕のちょうどその時刻、津島地区を通っている。
新潟県の職員2人は、原発事故対応の支援のため、ワゴン車に乗...
114号を浪江町に進み、津島地区を通った。~
午後4時ごろ、その先の川房地区で、警官に止められて引き返し...
その職員に話を聞くことができた。~
ただ、内部被曝してしまったので、名前が出るのは困る、との...
職員によると、当時、測定器は激しく鳴りっぱなしで、焦って...
津島地区を通ったとき、車がたくさん止まっていたので、避難...
「防護服? いいえ、着ていませんでした。車を降りてもいま...
14日未明には、放射線医学総合研究所のモニタリングカーが、...
まだ、大勢の避難民がいたころだ。~
車には測定器などを積み込んでいたが、「資材を運ぶのが目的...
みずえが会った2人は、そうした計測チームの一つだった可能性...
「あの2人の警告のおかげで逃げられた。それをなぜ、国や東京...
終了行:
[[福島第一原発事故]]
*あの時、福島のある町で起こっていた、25人の真実 [#o573d01d]
ウィンザー通信 2011年10月13日~
http://blog.goo.ne.jp/mayumilehr/e/f13884af9cb768d68c4047...
薔薇、または陽だまりの猫さんのブログに、ずっと読みたいと...
福島県、浪江町の津島地区で起こった、津波と原発事故直後の...
『プロメテウスの罠』と題されたこの記事は、前田基行記者が...
その第1シリーズとなった『防護服の男』が、ずっと読みたいと...
ギリシャ神話によると、人類に火を与えたのはプロメテウスだ...
火を得たことで人類は文明を発達させた。化石燃料の火は生産...
プロメテウスによって文明を得た人類が、いま原子の火に悩ん...
***■防護服の男 (1) [#xaf198cb]
(記事中の敬称は略しています)
福島県浪江町の津島地区。~
東京電力福島第一原発から、約30キロ北西の山あいにある。
原発事故から一夜明けた3月12日、原発10キロ圏内の海沿いの地...
小中学校や公民館、寺だけでは足りず、人々は民家にも泊めて...
菅野(かんの)みずえ(59)の家にも、朝から次々と人がやってき...
多くが親戚や知人だったが、見知らぬ人もいた。~
築180年の古民家を壊して、新築した家だ。~
門構えが立派で、敷地は広い。~
20畳の大部屋もある。~
避難者を受け入れるにはちょうどよかった。~
門の中は人々の車でいっぱいになった。
「原発で何が起きたのか知らないが、ここまで来れば大丈夫だ...
人々はとりあえずほっとした表情だった。
みずえは2台の圧力鍋で米を7合ずつ炊き、晩飯は握り飯と豚汁...
着の身着のままの避難者たちは大部屋に集まり、握り飯にかぶ...
夕食の後、人々は自己紹介しあい、共同生活のルールを決めた。
一、便器が詰まるのを避けるため、トイレットペーパーは横の...
一、炊事や配膳はみんなで手伝う。~
一、お互い遠慮するのはやめよう……。
人々は菅野家の2部屋に分かれて寝ることになった。~
みずえは家にあるだけの布団を出した。
そのころ、外に出たみずえは、家の前に白いワゴン車が止まっ...
中には白の防護服を着た男が2人乗っており、みずえに向かって...
しかしよく聞き取れない。
「何? どうしたの?」~
みずえが尋ねた。
「なんでこんな所にいるんだ! 頼む、逃げてくれ」
みずえはびっくりした。~
「逃げろといっても……、ここは避難所ですから」
車の2人がおりてきた。2人ともガスマスクを着けていた。~
「放射性物質が拡散しているんだ」~
真剣な物言いで、切迫した雰囲気だ。
家の前の道路は国道114号で、避難所に入りきれない人たちの車...
2人の男は、車から外に出た人たちにも「早く車の中に戻れ」と...
2人の男は、そのまま福島市方面に走り去った。~
役場の支所に行くでもなく、掲示板に警告を張り出すでもなか...
政府は10キロ圏外は安全だと言っていた。~
なのになぜ、あの2人は防護服を着て、ガスマスクまでしていた...
だいたいあの人たちは誰なのか。
みずえは疑問に思ったが、とにかく急いで家に戻り、避難者た...
***■防護服の男(2) [#qa78c517]
3月12日夕、菅野みずえは自宅に駆け戻り、防護服の男たちの話...
議論が始まった。
「本当に危険なら町や警察から連絡があるはずだ。様子をみよ...
やっと落ち着いたばかりで、みんな動きたくなかった。
しかし深夜、事態が急変する。~
数台のバスが、避難所になっている公民館に入って行った。~
それに避難者の1人が気付く。~
バスの運転手は「避難者を移動するのだ」と言ったという。
当時、浪江町は、逃げ遅れた20キロ圏内の町民たちを、津島地...
しかし、みずえはそんなことは知らず、やはりここは危ないの...
みずえは寝ていた人々を起こし、再び議論となった。
多くは動きたがらなかった。~
しかし、一人の女性が「みんながいたら、菅野さん家族が逃げ...
それで決まった。
「車のガソリンが尽きるところまで避難しよう」~
深夜0時すぎ、若い夫婦2組が出発した。~
2月に生まれたばかりの乳児や、小さい子どもがいた。~
夫婦は最初、「こんな深夜に山道を逃げるのはいやだ」と渋っ...
翌13日の朝食後、再び話し合った。~
前夜「逃げない」といっていた若い夫婦連れが「子どものため...
年配の女性が、夫婦に自分の車を貸した。~
「私は1人だから、避難所でバスに乗るわ」
夕方までには、25人全員が福島市や郡山市、南相馬市などへそ...
みずえは近くの家で避難している人たちにも、防護服の男たち...
1人が笑って答えた。~
「おれは東電で働いていた。おれらのつくった原発がそんなに...
男は原発事故からではなく、津波から逃れてきたのだ。~
みずえはこれで気が抜けた。~
みずえと長男の純一(27)は避難を取りやめた。
純一は避難所の活性化センターの炊き出し係で、握り飯をつく...
「おれだけ逃げるわけにいかないよ」~
このとき津島地区から10キロほどの地点で、30マイクロシーベ...
***■防護服の男 (3) 警察官、なぜあんな格好を [#l32196c8]
3月13日に、菅野家の25人が出て行った後も、津島地区の避難者...
避難指示は、12日午前5時44分に、10キロ圏内に拡大。~
1号機が水素爆発した後、午後6時25分に、20キロ圏内に広がっ...
しかし、官房長官の枝野幸男は、12日夜の記者会見で、~
「放射性物質が大量に漏れ出すものではない。20キロ圏外の地...
要するに、たいしたことはないが、念のため避難してくれ、と...
人々は、30キロの津島地区は安全だと信じていた。
東電の社員が、12日と13日に、浪江町の津島支所を状況報告に...
彼らは防護服ではなかった。~
「ここは危ない」ともいっていない。~
菅野みずえが会った男たちの様子とは大きく違っていた。
役場職員も区長も、みずえの会った防護服の男を見ていない。~
しかし、みずえは、見聞きしたことをしっかりメモに書きとめ...
15日早朝、前日の3号機に続いて、2号機で衝撃音がし、4号機が...
政府は初めて20~30キロ圏内の「屋内退避」を要請する。
津島地区の住民が避難したのはそのころだった。~
町長の馬場有らが、14日の3号機の爆発をテレビで知り、隣の二...
福島第一原発の正門では、15日午前9時に、毎時1万1930マイク...
それでも、枝野の発言は楽観的だった。
「放射性物質の濃度は、20キロを越える地点では相当程度薄ま...
「1号機、2号機、3号機とも、今のところ順調に注水が進み、冷...
原子炉が、12日のうちにメルトダウンを起こしていたことが国...
12日朝、浪江町で交通整理などにあたる警官が、防護服を着用...
「警官はなぜあんな格好をしているのか」~
住民は不安を抱いた。
浪江町議会議長、吉田数博(65)は津島地区の警察駐在所を訪れ...
吉田はいう。~
「知らないのはわれわれだけだったんだ」
***■防護服の男 (4) 殺人罪じゃないか [#qeae6e6f]
SPEEDI(スピーディ)という、コンピューター・シミュレーショ...
政府が130億円を投じてつくっているシステムだ。~
放射線量、地形、天候、風向きなどを入力すると、漏れた放射...
3月12日、1号機で水素爆発が起こる2時間前、文部科学省所管の...
放射性物質は、津島地区の方向に飛散していた。~
しかし政府は、それを住民に告げなかった。
SPEEDIの結果は、福島県も知っていた。~
12日夜には、東京の原子力安全技術センターに電話して、提供...
しかし、それが活用されることはなく、メールはいつの間にか...
3月15日に津島地区から避難した住民に、県からSPEEDIの結果が...
県議会で、この事実が問題となったためだ。
福島県の担当課長は5月20日、浪江町が役場機能を移していた二...
「これは殺人罪じゃないか」~
町長の馬場有は、強く抗議した。~
馬場によると、県の担当課長は涙を流しながら「すみませんで...
知らされなかったのは、SPEEDIの情報だけではない。~
福島県は、事故翌日の3月12日早朝から、各地域の放射線量を計...
同日午前9時、浪江町酒井地区で毎時15マイクロシーベルト、高...
浪江町の2地点は、ほかの町と比べて、異常に高い数値を示した...
1号機水素爆発の6時間以上も前で、近くには大勢の避難民がい...
これらの数値は、6月3日に経済産業省のHPに掲載された。~
しかし、HPにびっしり並ぶ情報の数字の中に埋もれ、その重大...
8月末、浪江町の災害救援本部長、植田和夫にそれらの資料を見...
「こんなの初めて見た。なぜ国や県は教えてくれなかったのだ...
菅野みずえはいう。~
「私たちは、国から見捨てられたということでしょうか」
***■防護服の男 (5) 私、死んじゃうの? [#u234e31e]
菅野みずえの家にいた25人の人々は、その後どこに向かったの...
その一人、谷田(やつだ)みさ子(62)はいま、愛知県春日井市の...
みずえの遠い親戚だ。~
同じ浪江町の小野田地区に家がある。~
みずえの家からは約20キロ海寄りで、福島第一原発から10キロ...
3月11日午後、自宅で地震に襲われた。~
翌12日早朝、隣の双葉町に住む次女一家が「ここは危ないから...
朝9時、家を出た。
みずえの家がある津島方向に向かう国道114号は、すでに大渋滞...
国道6号に出て北に進み、南相馬市小高区の長女宅に向かう。~
ここで、1号機の水素爆発を知り、さらに全員で津島を目指した。
みずえの家に着いたのは、夕方6時を回っていた。~
他の避難者が、炊き出しの握り飯を食べ終わったところだった。
一日中走り回って疲れていたが、避難者の会議には出席した。~
共同生活ルールのうち、使用済みトイレットペーパーを段ボー...
以前メキシコ旅行をしたときの経験を思い出したからだ。
しかし、ほっとしたのもつかの間、白い防護服の男たちの警告...
生後1カ月の赤ちゃんを抱えた次女一家7人と、長女一家4人を、...
翌13日夕、みさ子も発った。
行くあてはなかったが、「少しでも遠くに」と郡山市を目指す。~
郡山市では、避難して来る人たちの放射能測定をしていた。~
みさ子に測定器が向けられると、針が大きく振れた。~
「私、死んじゃうの?」と、測定係に叫んだ。
その晩は、車で寝た。~
15日朝、地震当時は相馬市にいた夫(54)と、携帯電話でようや...
会津若松市で合流し、新潟県経由で、22日、姉が暮らす春日井...
国や東京電力から、的確な指示が一切ないまま、12日間の逃避...
「原発は安全」~
これまで、そんな説明を、何度も聞いていた。~
それを前提とした生活が、すべて崩れた。
しかし、原発のおかげで、住民が恩恵を受けてきたのは事実な...
「原発だけ悪いなんて、私たちはいえないのよ」~
みさ子はため息をつく。
***■防護服の男 (6) ハエがたかっていた [#n40bf277]
谷田(やつだ)みさ子(62)は、浪江町で生まれ育った。~
中学生のころ、東京電力が、福島第一原発づくりを始めた。~
高校卒業後、上京して就職したが、1年半で浪江町に戻った。~
そのあとは東電一色の生活だった。
結婚し、3人の子を育てながら、焼き鳥屋をやった。~
客は、原発で働く作業員たちだった。~
その後は、東電の社員寮に勤める。~
昨年の夏まで10年間働いた。~
食事をつくり、若い社員らに「やつだっち」と呼ばれて慕われ...
女子寮には、女子サッカーのなでしこジャパンで活躍した鮫島...
「みんないい子でかわいかったです」
子供たちの手が離れてからは、東電の管理職の寮に住み込んだ。
思い出すのは選挙の時の東電の力の入れようだ。~
町長選挙や県議会議員選挙があると、寮の食堂が、東電幹部ら...
支援候補が当選すると、幹部はそろってお祝いに駆けつけた。~
「電力会社は政治とがっちりつながっているんだな」と感心し...
これまでの人生の半分以上を東電とかかわってきた。~
にもかかわらず、今度の事故では、東電から何の情報もなかっ...
愛知県春日井市に避難してからは、いっそう情報が入らなくな...
福島県の地元紙を郵送してもらい、隅から隅まで目を通す。
これから生活はどうなるのか。~
補償はどうなるのか。~
不安だらけだ。
6月、浪江町の家に一時帰宅した。~
冷凍庫は地震でひっくり返ったままで、腐った食材にハエがた...
8月末、自分の車を引き取りに、再び福島に戻った。~
夫が車を運転し、春日井市から高速道路で8時間かかった。~
広野町の体育館で防護服に着替え、用意されたバスに乗り込ん...
バスが止まると、首輪をつけた2匹の犬が、足元に寄ってきた。~
途中、道ばたで、猫が2匹死んでいるのを見た。
「一歩間違えたら、私たちがああなっていたのかな」
事故後、長女は郡山に、次女は新潟に、家族は散り散りになっ...
9月、福島県の仮設住宅に入居を申し込んだ。~
「福島は何十年も暮らした土地ですから。戻りたい」~
涙がこぼれた。
***■防護服の男 (7) 早く東京へ来なさい [#e593591b]
東京に住む娘の携帯電話の指示で、転々と避難を続けた者もい...
菅野みずえの家に避難した、門馬洋(もんま・ひろし)(67)と昌...
自宅は、浪江町の権現堂地区で、原発まで10キロ内。~
3月12日朝、町の防災無線が「津島に逃げてください」と避難を...
車で、知り合いのみずえの家に避難した。
菅野家には、昼前に着いた。~
昌子はみずえの炊き出しを手伝い、お握りを握った。~
夕食後、25人の避難民たちが、自己紹介しあった。~
知り合いが何人もいた。
みずえから、白い防護服の男たちの話を聞かされたときは、夫...
しかし、翌13日朝、再びみずえから逃げるようにいわれ、昼前...
とにかく北へ逃げようと、南相馬市を目指した。~
コンビニも商店も閉まっていた。~
レストランを見つけた。~
納豆定食が残っていたので、それを食べた。~
3軒のホテルに断られ、ようやく見つけたホテルに泊まった。
14日夜、福島空港から飛行機に乗り、15日に東京の長女と合流...
長女の真理子(36)は地震のあと、両親の携帯を呼び続けた。~
11日の地震直後に、一度通じただけで連絡が途絶える。~
あとはメールだけだった。
しかし、メールの返信も途絶えた、12日の午前8時43分。~
「お父さんとお母さんの無事を、神様にお祈りしています」
テレビやインターネットで、原発事故の新しい情報を必死で探...
1号機が水素爆発した12日の午後9時。~
真理子は、テレビで専門家が「大丈夫」、と言っているのを聞...
「爆発は外壁だけで、放射能をまき散らすものではなかったと...
そんなメールを送った。~
大変な誤りだった。
両親が、南相馬市に再避難した13日には、「女川原発まで放射...
そして14日の正午。~
「3号機が11時半に爆発した。早く東京へ」~
父は「そこまで行かなくてもいいじゃないか」と返してきた。~
真理子は「とにかく早く来なさい!」と叱った。~
責任のある人たちは、だれも両親を助けてくれようとしなかっ...
真理子にはその不信感だけが残る。
***■防護服の男 (8) 「ふるさと」歌えない [#tdd5d2a9]
菅野みずえの家に避難した門馬洋(67)は、元高校教師だ。~
福島第一原発がつくられた40年前から、反原発運動にかかわっ...
当時住んでいた、楢葉町(ならはまち)の町営住宅に、住民3人が...
県知事や町長らに、危険性を訴え続けた。~
東京電力とは、数年前から毎月1回交渉し、3月22日も交渉が予...
原告404人で、隣の福島第二原発について裁判を起こしたが、負...
そのとき、仙台高裁の裁判長が述べた言葉を、今もはっきり覚...
「反対ばかりしていないで、落ち着いて考える必要がある。原...
それから21年。~
原発は安全だという幻想は、あっけなく崩壊した。
「東京電力の想定がいかに甘いか。そのために多くの人に、ど...
しかし、浪江町が今回の事故で、「殺人行為だ」と、国や東京...
浪江町にも、東北電力の原発建設計画が、40年前からあった。~
浪江町議会が、誘致を求めていたものだった。~
昨年、町内会の会合で、町議が洋を見ながらいった。~
「原発で浪江町の未来は明るくなる。門馬先生は反対でしょう...
7月に一時帰宅したとき、線量を測った。~
家の近くで、毎時4マイクロシーベルトあった。
畑には、大きな柿の木がある。~
長女の真理子(36)が生まれたときに、植えたものだ。~
300個以上の実をつけた年もあった。~
「もう実がなっても食べられませんね。汚染されてしまったか...
30年ほど前、町内の体育館を借り、東京の劇団を呼んで、放射...
原発事故で町民が逃げ惑う、というストーリーだった。~
それが現実になった。
夫婦は、東京都北区の団地に、身を落ち着けている。~
家賃は、13万5千円と高いが、長女の家の近くに住むため、そこ...
東京電力からもらった仮払金100万円を、家賃の支払いにあてる。
洋は、福島にいたころから、合唱が好きだった。~
7月、北区で、合唱団の催しがあるのを知り、妻の昌子(68)と参...
兎(うさぎ)追いしかの山、の「故郷(ふるさと)」を歌った。~
洋も昌子も途中で歌えなくなった。
***■防護服の男 (9) [#p61f3ac5]
浪江町の、赤宇木(あこうぎ)地区に住む、三瓶(さんぺい)ヤス...
菅野みずえとは、公民館の民謡サークル仲間だ。
ヤスコは8月初めまで、細い山道を上った一軒家に1人で住んで...
地震直後は、神奈川県の孫娘の1DKのアパートに、富岡町の長女...
しかし、隣室の食事の音まで聞こえる。~
周りにも気を使う。~
「この年になると都会の生活は合わない」~
犬と猫のことも気になり、4月末に赤宇木に戻った。
そのころは、まだ地区に数世帯が残っていた。~
そのうち1軒減り、2軒減り、誰もいなくなった。~
警察が30キロ付近で通行規制を始めると、車も通らなくなった。~
さみしくなった。~
夜は真っ暗だ。~
何も考えないように思っても手が震え、食べ物がつかえた。
気晴らしに近くをドライブした。~
しかし、帰り道はどの家も明かりはない。~
山道を落ちても、だれも助けにきてくれないと思うと、ドライ...
日曜になると、背中に「文部科学省」と書かれた作業服の男た...
ヤスコは、車がくると出て行き、「今日はなんぼですか」と尋...
「15マイクロシーベルトだよ」~
男は気軽に教えてくれた。~
「私の家も測ってくれんかね」
別の日、男は家の周辺を測ってくれた。~
家の外で10マイクロシーベルト、居間で5.5マイクロシーベルト...
平常値をはるかに上回る量だ。~
男はそれを紙に書いてヤスコに渡した。
6月初めのある日曜日、男がポツリと言った。~
「今だからいうけど、ここは初め100マイクロシーベルトを超し...
その後も、男は「参考にして」といって、各地域の放射線量が...
だが、ヤスコは8月初めまで赤宇木にとどまる。~
「放射能は目に見えるわけでないし、数値を聞いてもよく分か...
8月初め、二本松市の仮設住宅に当たったため、赤宇木を出た。~
しかし、今も2日おきに、約25キロ離れた自宅まで車で通う。~
犬と猫にえさをやるためだ。
***■防護服の男 (10) 口止めされた警察官 [#ne19c858]
関場和代(52)は3月14日、会津若松市の親類宅に避難した。~
家は、菅野みずえの家に近い、浪江町南津島にあった。
その後も、避難指示がないため4月2日、ひとまず自宅に戻った。~
数日して、家の前に自衛隊のジープがとまり、隊員が降りてき...
安否確認で来たという。
そのころ、浪江町の放射線量が高いことが報道されていた。~
それが心配で、おそるおそる尋ねた。~
「この辺の線量はどのくらいですか」~
隊員はにっこり笑い、ここは大丈夫だと答えた。~
「私たちは線量計を付けています。1日にどのくらい線量を浴び...
和代はそれで安心した。~
家に閉じこもるのをやめ、近所に出かけていった。~
4月17日。~
近くの橋の上にいると、男が近づいてきた。~
フリージャーナリストの豊田直巳(55)だった。~
和代が、自宅の線量を測ってほしいと頼んだ。~
豊田は、敷地のあちこちを測りはじめた。
玄関の雨どいの下を測ったとき、豊田が「ワッ、これは大変だ...
ためらう豊田に、和代は「本当のこといってください」と頼ん...
「2時間いたら、1ミリ吸います」と、豊田は答えた。
豊田によると、そのときの線量は、毎時500マイクロシーベルト...
2時間いただけで、年間許容量の1ミリシーベルトを超える値だ。
具体的な数字を初めて聞かされ、大変なことだと初めて自覚し...
和代はあわてて身支度し、豊田に見送られて家を飛び出した。~
数日後、ネコを引き取りに、再び家に帰った。~
警視庁のパトカーが敷地に入ってきた。~
「ここって高かったんですね」と、30代ぐらいの警察官に聞い...
「そうなんです、高いですよ。でも政府から止められていてい...
警察官はそう答えた。~
和代はびっくりした。ジープの自衛官がいったことは何だった...
「もし自分の家族だったら、同じことがいえますか。真っ先に...
7月、中国の高速鉄道事故で、証拠隠しが発覚した。~
日本のメディアは、中国政府の対応を厳しく批判した。~
和代は腹が立ってくる。
「日本だって同じじゃないの」
***■防護服の男 (11) あの2人のおかげで [#ve7cb1c9]
菅野みずえの家に避難した25人は、「白い防護服の男」の情報...
大量の放射性物質が飛び散り、住民が被曝(ひばく)するかもし...
しかし、政府も東京電力も、それを住民に教えなかった。~
しかし25人は、混乱を起こすこともなく、冷静に動いている。
みずえは今、福島市に近い、桑折町(こおりまち)の仮設住宅で...
「ほら、見てください」~
みずえは空き地で遊ぶ子どもたちを指さす。~
「あんな小さな子が、避難生活の苦労を背負って、これから生...
それにしても、あの白い防護服の男たちは、一体だれだったの...
みずえは今も考える。
そのころ福島県内は、文部科学省や福島県、日本原子力研究開...
例えば、新潟県からの応援車もきていた。~
3月12日夕のちょうどその時刻、津島地区を通っている。
新潟県の職員2人は、原発事故対応の支援のため、ワゴン車に乗...
114号を浪江町に進み、津島地区を通った。~
午後4時ごろ、その先の川房地区で、警官に止められて引き返し...
その職員に話を聞くことができた。~
ただ、内部被曝してしまったので、名前が出るのは困る、との...
職員によると、当時、測定器は激しく鳴りっぱなしで、焦って...
津島地区を通ったとき、車がたくさん止まっていたので、避難...
「防護服? いいえ、着ていませんでした。車を降りてもいま...
14日未明には、放射線医学総合研究所のモニタリングカーが、...
まだ、大勢の避難民がいたころだ。~
車には測定器などを積み込んでいたが、「資材を運ぶのが目的...
みずえが会った2人は、そうした計測チームの一つだった可能性...
「あの2人の警告のおかげで逃げられた。それをなぜ、国や東京...
ページ名: